あとがき
本格的な高年齢化社会の到来を迎え、海上に限らず、その企業の中で高齢者ならではの知識技術を認識し、これを活用するというプラス思考が求められる時代ともなった。
ただ、高齢者は加齢と共に心身機能が低下するというマイナス方向の特徴が出るので「その弱点をカバーし、より安全に働くためには如何にすべきか」が本事業の命題であり委員会のテーマでもあった。
元来、災害の原因が高齢化に伴う心身機能の低下によるものかどうか、必ずしも断定できないことが多く、これまで高齢者に対する安全の指標が明確に示されることはなかった。
これは安全性という大きな命題を追うとき、ポイントを高齢者という点のみに焦点を絞り込もうとする作業が非常に難しく、また、もう一方の困難性は、高齢者を年齢という尺度だけでは測ることができない個人差の大きさであった。
船員労働安全衛生規則の個別の作業基準の条項に「高年齢船員の作業」として明示できないのはその現れであろう。
本報告書においても「高齢的要因」「加齢的要因」をいかに際だたせるかに腐心したが、できるだけ具体性を持たせるために、それぞれの事故例から高齢者に絡むものを抽出し、その改善策として項目別に列挙した。
船内作業環境及び作業方法等については、これまでもそれぞれの船種において様々な改良が加えられてきたが、つい従来の習慣のままに放置された部分も多々あると思われるので、本報告書で挙げた各項目についてそれぞれ検討を加え、作業環境、作業方法の改善を実行されることを願って止まない。
「安楽」という言葉があるが、楽の追求は安全につながるわけで、苦痛を伴わない作業環境こそ安全な職場といえるであろうし、高年齢労働者に適した安全対策は当然若年層にも有効であるのは言を侯たない。
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